某日。
天気の悪い休日の昼、
新宿でナンパをしていた。
1時間ほど声かけして、
2件ほど連絡先をゲットした後に自分の買い物を済ませて。
もうそろそろ自宅に帰ろうと、とあるデパートを出たその時だった。
正面から。
突然。
目が合った。
大きな目。
綺麗な肌。
小さな顔。
長い、巻いた明るめの茶色の髪の毛。
向こうも驚いた顔をして。
たぶん、チバの相当驚いた顔を見てだと思うが。
しかし、そのまますれ違って。
思わず立ち止まり、ばっ!と振り返り。
彼女の後ろ姿を見る。
背が高い。
高そうな黒のコート。
かなり足の露出が激しい。
高いピンヒール。
カツカツと音を鳴らす、オーラのある歩き方。
スト4クラスの美女物件。
一瞬地蔵する。
だが意を決する。
「あの!」
追い抜いて、前に出て。
姿を見せてから。
勢い良く、声を掛けて。
そしてそのまま、運命トーク。
さっき目が合ったこと。
思わず引き返してしまったこと。
ちょっと脇に移動して。身振り手振り多用して。粘って粘って。
『これってナンパってことですよね?』
ぐう。
嫌な切り返し。
でもそれも打ち返して。
地下街から駅まで行く途中、と言うので、俺もそう、と合わせて、駅まで一緒に行って。
並行して怒涛のように喋って。
駅の改札近く。連絡先打診。
案の定NG。だがめげない。
二度と無いチャンスを諦めるつもりはない、と押し続ける。
『じゃあ、ラインならいいですよ』
そこから更に粘り、結局TEL番もゲット。
手を降って彼女を見送った後、よしっ、と、こっそりと片手でガッツポーズをする。
かなり上級の美女をナンパできて、ものすごく興奮していた。
だが、ここから大変で。
その晩にかけた電話は出ず。
続いていたラインは数日で途切れ。
復活メールで一度ラインが再開したものの、
アポが全く決まらずただのメル友と化し。
しっかり宣言してから電話したもののそれにも出ず。
さすがにないな、と思い、こちらから切る覚悟で厳しいラインを送ると、彼女はそれを既読無視。
だが、数日後彼女から電話がかかってきて。
その流れでアポの日程が決まり。
それをドタキャンされ。
連絡が途絶え。
でもまた復活して。
繰り返して。
そんなこんなで二ヶ月くらいグダグダしたのち、
丁寧な復活メッセージを送ると反応良く。
そして、とある金曜日の夜に。
やっとこさの。念願の。
彼女との、アポを迎えた。
——-
◆1軒目 隣り合わせのバー
『ほんとしつこかったよね(笑)』
乾杯をしてグラスを口につけた後、彼女は笑いながらそう言った。
彼女の暖かそうなコートの下の服は、びっくりするほど薄着だった。
彼女は背が高い上に、胸も大きく、お尻も大きくて。
その上ボディラインがくっきりと分かる、ワイドネックのワンピースを着ていて。
丈が短いから、太ももがかなり露出していて。
髪型は巻き髪。
大きめのピアス。ネックレス。ブレスレット。
そして、これまた高い、ピンクのピンヒール。
髪をかきあげるしぐさとか、それらを含めて。
彼女を形容するには、ゴージャス、という言葉しか思いつかなかった。
その威圧感に少したじろぎそうになるが、気を取り直す。
「ね。今考えると、俺も理解できないよ」
突然のチバのいじりに、彼女は はあ?と、顔をしかめる。
だが、全然動じない。
今は、アポだ。
アポとストリートでは、フィールドがぜんぜん違う。
ストリートでは最初に女性に少しでも嫌悪感を与えてしまうと、そこから先全てをガンシカされてジ・エンドだ。
そのため粘って粘って好意を積み上げて、確実に好印象を残したままその場を去らなければならない。
しかし、アポは違う。
アポでは女性が突然帰ってしまうことがない。
そのため、どんなに念願のアポだったとしても。
下げて、上げて、また下げて、また上げるという、感情のゆさぶりを仕掛けて口説いたほうがよくなる。
上げて、上げて、上げての口説き方よりも、リスクを取ってゆさぶりをかける口説き方の方が、最終的なゲット率が格段に上がるのだ。
「冗談だよ。今日こうして会えて本当に良かったよ」
いじって、フォローして、またいじって。
その間に質問して、喋ってもらって。
どんどん、彼女の情報を引き出していく。
彼女の年齢は20代後半。
とある日本海側の地方都市出身で、高校卒業後に上京。
都内の大学を卒業して、現在はこれまた有名な企業の一般職OLをしているという。
「ほんとにOL?(笑)」
『うん(笑)』
「いやないわ。さっきから気になってたけど、そのネイル、絶対パソコン打てないでしょ」
『えー打てるよ?』
「どうせこうでしょ?(片手人差し指で押すジェスチャー)」
『そこまでじゃないわ(笑)』
ネイルいじりの後、さらに踏み込む。
『○○ちゃんと△△ちゃんがね、それで。。。』
「ねえ、○○ちゃんの写真とか無いの?見たいな」
『えー』
「その方がイメージしやすいし」
で、Facebookを見せてもらう。
まぶしいくらい華やかなFacebookタイムラインが目に飛び込んでくる。
楽しそうだ。
コンテンツが充実している。
FBはプロフに風景画像一枚のみのチバとは大違いだ。
写真一覧を見せてもらう。
度肝を抜かれた。
友人も皆そろって美人。そしてゴージャス。
やはり、美人な女性には美人な女性が集まるようだ。
類は友を呼ぶとはこのことか。
さらに彼女のことを知りたくなった。
ここから、一気に恋愛に関する深い話へ。
彼女は、かなりの恋愛遍歴の持ち主だった。
中高時代はその背の高さがコンプレックスで、あまり恋愛ができなかったらしい。しかし、東京の大学に出て化粧を覚えて、一気にデビューした。
出会いの場に多く繰り出し、多くの男性とデートをし、多くの男性と付き合ってきた。
彼氏を切らしたことはほぼなく、かなりのハイスペックと付き合ってきたようだった。
彼女は学生の頃から40代社会人と付き合ってきた。
多くの高級ホテルの詳細を知っていた。
外資金融の「モルガン」と言ってもモルガン・スタンレーとJPモルガン・チェースの2つあることをちゃんと理解できていた。
驚きの連続だった。
彼女は、過去の恋愛について明るく語った。
つらい思いもしたようだが、そのおかげでより良い出会いにつながったと言っていた。
つらい経験が、次の幸せにつながると彼女は信じていた。
根っこから明るい人なのだと思った。
きらびやかな服装も、生活も、全然嫌味に感じなかった。
日々楽しくて仕方がない、という感じが伝わってきた。
チバも、そんな彼女と一緒にいて、楽しくなった。
話は盛り上がり続けて。
隣り合わせのバーで、お酒も食事もほとんど取らず、2時間以上も語り合った。
だが、冷静になれ。
このまま語り合うだけでいいのか?
違う。
いまは口説きの最中だ。
ステップは?関係構築ステップ。
判定は?もう十分だろう。
ぐずぐずするな。
すぐに、次のステップに移ろう。
◆2軒目 立ち飲みのバー
店を変え、場の雰囲気を一気に変えることで肉体的な距離を詰めにかかる。
お酒も進んだ。彼女の顔はほんのりと紅潮している。
店でかかる音楽に合わせて、彼女はノリよく体を揺らしている。
ときたま、肩と肩がふれあって。
その度にどきっとした。
彼女と目が合った。
とろん、とした彼女の目。
吸い込まれそうになる。
互いに、互いの目を見つめ合った。
数秒。
互いにうつむいて目をそらした。
ちらっと彼女を盗み見た。
また目が合った。
「酔っぱらっちゃったかも」
彼女は、赤らんだ顔で、少し照れた笑みを浮かべながら、そう言った。
ピークだ!
今しかない。
仕掛けるなら、今だ。
覚悟を決めた。
さあ。
一気に決めよう!
◆3軒目
「次行くよ」
立ち飲みのバーから徒歩で移動。
楽しいおしゃべりは続いていた。
テンションはうまく保てている。
時々肩が触れ合う。
それくらい、ふたりは寄り添うような近さで歩く。
数分後。
着いた。
チバの自宅のマンション。
自然な流れで、エントランスホールへと向かう。
チバは何も言わず。
すっと、隣りにいる彼女の手を取る。
彼女の温かい手を感じる。
抵抗はない。
よし!
ふっーと、肩の荷が下りる。
自然と笑顔がこぼれてくる。
チバは振り向き、彼女の表情を見た。
真顔だった。
『ほんと、最悪だね』
そう言って。
ばっ、と。
振り下ろすように。
彼女は、チバの手を振りほどいた。
【後編】
コメント
おろしろい、おろしろすぎますw
マジ次が気になる。
早く早く読みたいです(*´∀`)
ジーコさん
コメントありがとうございました。
後編をアップしたのでぜひ
会うのに2ヶ月、すごいガッツです!
チバさん!!
僕も年末年始頑張ります!!