山手線の美女 -美女ゲットナンパ12人目- 【前編】


ここ8ヶ月の出来事です。









某日



20時頃。所用で山手線に乗っていた。



この頃、仕事もプライベートもあまりうまくいかないことが続いていて。


普段は会社まで徒歩通勤のため、人の多い電車が窮屈で。


どんよりとした気分で、ぼーっと立っていた。


恵比寿駅でドアが開き、多くの人が入れ替わった。
ふとドア付近を見た。




はっ、と。息が止まった。





透き通った綺麗な目。
小さすぎる顔。
切れ長の目尻。
長いまつげ。
整った鼻筋。
白い肌。



軽くウェーブした黒髪。
すっと伸びた細い腕。
大人っぽい、艶やかなネイル。




美女!

と、認識したその瞬間。

ぐらりと、車内が揺れる。



前の人がじゃまになり、彼女が見えなくなる。


邪魔だ!
と心のなかで叫びながら、
ぐいっと首を伸ばし、彼女を見る。



彼女はスマホを見ていた。



彼女はうつむいている。
美しい流し目。
ぷるんとしたハリのある唇。
綺麗に描かれた眉毛。



年齢は20代なかばか。
お洒落をしている。
これからどこに行くのだろうか。



そんなことを考える。
心臓の音がどんどん大きくなる。




ふと、電車が止まり。次の駅へと到着した。

彼女は!?


まだ同じ位置にいた。
相変わらずスマホをいじっている。




どうする?
チバは考えた。


チバは普段は徒歩通勤。
そのため、電車ナンパはほとんどしない。


車内ではできない。
だったら。
降りたときを狙うか?


いや。もし彼女が次の駅で降りたら?



チバの降りる駅はまだ先だ。
明らかに不自然。

なんと言って声をかければいい?



「電車で見てました」か?
それはキモくはないか?



ガタゴトと、電車が次の駅へと向かう。
彼女を盗み見る。



本当に美しい。
心臓の音がどんどん早くなる。




諦めるのか?
普段しない電車ナンパだから。

だからって、諦めるのか?



電車が次の駅に到着する。
彼女を見る。



まだ降りない。
だが次の駅では分からない。



彼女を観察する。
彼女は本当に色白で、
うっすらと、こめかみの血管が見える。


綺麗に化粧された目元。




声をかけたい。

しかし、断られたくない。



諦めてしまえば、楽になる。


電車内だから。
3秒ルールも、電車内なら適応外だから。


自分はストリートナンパ師だから。
電車ナンパ師ではないから。



だから、声をかけられなくても、仕方ない。
このまま自分の用事に向かおう。


そう思った。


しかし、ふと考えた。



チバは何のためにナンパをしている?
チバは、何のためにナンパをしてきた?


7年以上。何を目的にナンパをしてきたんだ?



自分が思う最高の美女を、自分の実力でゲットするため。


本当にこの人がいい!と思った人と、素晴らしい日々を一緒に過ごすため。



そのために努力をしてきた。
はっきりと、そう明言できる。




そう。
だとしたら。



今。
この瞬間。


この人に声かけをする。


そのためにいままでやってきた。


ということに、
なるのではないだろうか?





電車が止まる。
ドアが空く。


彼女はまだ降りない。



電車が次の駅へと向かう。




ここでいこう。
ここでいくべきだ。



心臓が高鳴る。



チバが努力をしてきたのは、
この瞬間。この1つの声かけのためだ。




次の駅近く。


彼女がスマホを仕舞った。
電光掲示板を見上げた。


次か。



電車が次の駅へと近づく。
心臓の音で列車音が聞こえない。



次の駅。

ドアが空いた。


すっ、と彼女が出口のドアからホームに降りた。



今だ!



チバは車内の人混みをかき分け、
勢い良く、電車のドアを飛び出した。








————






「あの!」




ホームに降りた彼女に、すぐさま声をかけた。



『はい!』




声をかけられた彼女は、驚いて大きな声を出した。


しまった、
驚かせてしまった!


まずはこちらの姿を見せてから、声をかけるべきだった。



彼女の表情を見る。

驚き過ぎている。

これは良くない反応。

チバは、早速致命的な失敗をしてしまった。



「ちょっと待って下さい!」



まるで自分に言ったかのようだった。
緊張で声がうわずる。
ジェスチャーを使って立ち止めし、ホームの真ん中へと誘導する。



そして、ここから一連の運命トーク。



必死にトークした。
しかし、声がうわずっていた。
彼女の表情は?
分かってしまう。



これは不信感の表情だ。





『すみません、急いでいるので』






失敗!

やってしまった。
苦い顔になる。


どうして?
どうしてこういう大事な局面で、ミスをする?


彼女が去っていく。


はあ。なぜ?なぜここで失敗する?
こんなに準備しといて。
こんなに考えて。


どうしてここでミスをする?



どうしてもという女性の前で、
どうして、
こういう失敗をする?



悔しかった。
悔やみきれなかった。

彼女がどんどん小さくなる。



彼女が階段に消えていく。



これでいいのか?
俺という人間はこの程度か?


いや。
良くない。
これで終わりになんかしたくない。



とっさに。

ダッシュしていた。


気付いたら、ダッシュで階段を駆け下りていた。


最後の三段目で、足を滑らせた。


どすっ、と、お尻から勢い良くホーム地下の階段に着地してしまった。


痛い。
思わずうめく。


ちらっ、と、周りの人の目線が気になった。




クソくらえ。




見てろよ。
すぐに立ち上がる。
彼女は?
左右を確認する。


いた。左手。
改札に向かって歩いている。



ダッシュ。
チバも改札を抜ける。


抜けたところ。
彼女に追いつく。



そして、本日二度目。



息を切らしながら。
必死な表情をしながら。



チバは彼女に、もう一度、声をかけた。









————









『ねえ、ほんとに最初から○○駅で降りる予定だったの?笑』




隣り合わせの席のバー。
お酒でほんのりと上気した顔で、彼女はチバに笑いかけてきた。



「そうだって」とさらりと返答する。チバは、シャンディガフを口にしながら、彼女を盗み見る。



綺麗な黒髪。
美しい肌。
笑顔のときに見えるえくぼ。

美しい横顔。



本当に綺麗で。
本当に美しくて。



顔面の整い方だけでみれば、間違いなく、ここ数年でナンバーワン。
自分の気分の高まり方で言えば、はっきり言って、歴代ナンバーワンで。



直視できないくらい綺麗。直視できないくらい、胸がドキドキして。



この奇跡のアポに、チバは感謝していた。



あの日、二度目の声かけで彼女は立ち止まってくれた。
こちらの必死な様子に笑ってくれて、都合が合えば、とアポを了承してくれた。



それから連絡先を交換して一週間と数日。無事にアポまでこぎつけた。




彼女は20代中盤のOL。
とある企業の総合職。
仕事は人事系であり、社内に向けた会社の顔として活躍していた。



『社内の人と長く付き合ってたよ。結局別れちゃったけど』



恋愛遍歴はとにかく付き合うと長いということ。
付き合った彼のスペックは、その時その時の最高案件だということは垣間見える。

しかし、とっかえひっかえというわけではなく、
とにかく、付き合うと数年は必ず付き合うタイプだという。



彼女とのトークを積み重ねていく。
知れば知るほど魅力的な彼女。
身持ちの固い彼女。


念願のアポ。
奇跡のアポの本番。


しかし、チバは緊張しなかった。



それもそのはずだった。
チバは、この日のためにシミュレーションを繰り返してきた。



予想外のことは、「予想外」だから生まれる。

つまり、想定していなかったから慌ててしまう。


だとしたら。

事前に。
あらかじめ。


全てを予想してしまえばいい。



幸い、予想出来る環境は揃っていた。
何回も、何度も、何年も何年も通いつめた店。
全ての建物が分かるくらい通った道。
同じルート。
分岐パターン。


部屋で。
電気を消して目を閉じる。
想像する。
頭の中で。導線を確認する。
どの道を通るか。
どこでどう言うか。
ここでこう言われたら、こう切り返す。

こう言われたら、こう切り返す。
こう言われたら、こう切り返す。



何度も何日もシミュレーションしてきた。
ボクサーがシャドーボクシングをするように。
バッターがスイングの練習をするように。


何度も。何度も。
寝る前も。何度も何度も。


この日のことを考えてきた。


だからか。
緊張はほとんど無かった。
驚くほど落ち着いていた。



そして、現実のアポも順調だった。







————







2軒目。立ち飲みのバー。


ここでさらに雰囲気を盛り上げて、
ボディタッチへと移る。


ふと手が触れ合う。

目が合う。


ふふ、と彼女が照れたような表情を浮かべ、
うつむきながら、チバの腕を子供のように叩く。



全て順調だった。




3軒目。


チバの自宅へと誘う。





彼女『家に行くの?』

チバ「そうだよ」

彼女『お店に行こうよ』

チバ「うん。でもふたりきりになりたい」

彼女『バーとか、そういうところは?』

チバ「店員が邪魔だよ」





チバ「ワインとおつまみがあるんだ。一緒に飲もうよ」






数分のグダ崩し。
自宅IN。



白ワインとクラッカーで乾杯。
じっくりとなごみ。


そしてギラ。


グダ。




彼女『やっぱりこれ目的だったの?』

チバ「これって?」

彼女『こうしてくること』

チバ「恋人みたいな感じのこと?」

手を握る。

彼女『ちょっと。。』

チバ「こっち見て」

彼女『ん。。』




キス。

Dキス。



ゆっくりと。
彼女に口づけして。



ベッドに移動。




ギラ。




チバは、準即を決めた。







そして、ここで終わらせなかった。



しっかりとフォロートーク。


恋人のような空気を作る。
一晩を過ごし、
朝も一緒に過ごす。



別れ際。
次の約束をする。



次のアポ。
しっかりと楽しませ、
別れ際、また次の約束をする。




そして三度目のアポ。




チバは、告白をした。



あなたのことが好きだと。



付き合って欲しいと。



正直な自分の気持ちを、しっかりと伝えた。





『チバさんがそう言ってくれるの、ずっと待ってた。』






彼女は、瞳を潤わせながら、そう言ってくれた。




幸せな気持ちに包まれていく。




彼女からの了承。



心から好きと思える、
心から美しいと思える彼女。



その彼女が、チバを受け入れてくれた。




これ以上ない。



本気でそう思うくらいの、
最上の幸せに包まれた。







そして、現実はいつも通りで。





待っていたのは、
残念な結末だった。



















【後編へ続く】







・読者の皆様の声をまとめました




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コメント

  1. トンパ より:

    とても引き込まれました\(^o^)/
    慣れない場所でのドキドキ感!
    電車で見かけたらナンパ頑張ってみたいと思います!

  2. けい より:

    すさまじい文才ですね。天才です。
    しかも行動力のすさまじさ…!
    メールマガジン登録しておりますが、いつも感嘆して読ませていただいてます。
    ナンパ100人ゲット2人レベルの超超初心者ですが、いつか自分もチバさんのようになりたいと思ってます。
    これからも楽しみにしております。

    • チバ より:

      >けいさん
      100声かけできていて、かつ2ゲットという成果を残せているので、
      かなり良い傾向だと思います。
      ともに頑張りましょう。

  3. ストロング より:

    とても素敵な文章で小説を読んでいるようでした。
    個人的にどのように声掛けをしたのかをもう少し詳しく書いてもらえるととても参考になるので、出来たらよろしくお願いします。

    • チバ より:

      >ストロングさん
      ありがとうございます。努力します。

  4. 喜多川 より:

    チバ様


    お世話になります。
    初めてメッセージお送りさせて頂きます。
    渋谷、銀座、六本木などでPU活動しております、喜多川と申します。
    よろしくお願いします。


    山手線美女 前編拝見させていただきました。
    非常に面白い記事です^^


    ちなみに、今回の記事で出会ってから声掛け→オープンするまでの所ですが美女の背後から大きな声で声掛けをしてしまった事によりファーストコンタクトで失敗したとありますが、次回よりどの様にチバ様なら改善されますか?


    大変混み合っている電車内での声掛けも、なかなか難しいとは思いますが…。
    僕だったら電車内で声掛けしていたなー。と思ったので。


    私の場合ですと基本、間接オープナー(道聞き)、周辺環境オープナーを用いてオープンさせる事が多いので(^^;)
    ※クラブ、バーナンパなどは別ですが。


    チバ様は記事など拝見させて頂いていると直接法での声掛けが多く見られましたのでご参考までに教えて頂ければと思います。

    • チバ より:

      >喜多川さん
      直接法・関節法と、物件に合わせてかなり変えています。
      長くなるので順にメルマガにて回答しますので、事前にご登録しておいてください。https://nanpawars-blog.net/post-965

  5. てんてん より:

    こんにちは
    シリーズ最新作待ち焦がれていました!
    さすがの文才ですね
    続きが気になります
    これからも続編書いてください!

  6. j より:

    2回目の声がけの省略がかなり気になります。
    なにか意図があるのでしょうか。。